純情エゴイスト
□心と体
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夜を迎えた街は、クリスマス当日という事もあり、人で賑わい、数々のイルミネーションで飾られていた。
その中を一人の男が立ちつくし一点を見つめていた。
その視線の先には、二人の男女が…いや白のコートに身を隠している方は男に見えなくもない。
もう一人は長身で黒髪、黒のジャンパーを着ている。
「あれが、『のわき』ね…」
そう呟いた男は黒のコートを翻し、イルミネーションのない暗闇へと消えていった。
「ヒロさん、今日はやっぱりよしませんか?おれは別に明日でも…」
よたよたと隣を歩く恋人を支えながら、野分は苦笑いする。
「うっせ!いいから、やるんだよ!!チキンは買ったし、ケーキも買った。後は…酒だ、酒!野分!酒買うぞ!!」
野分のためにクリスマスを祝おうと思い立ったのは、情事後のベッドでのこと。
野分としてはいつもより激しくした覚えもあり、これ以上無理だと言ったのを貪った自信もあるため、まさか弘樹が本当に立ち上がるとは思っていなかったのだ。
実際はヨロヨロで今も威勢の割には野分に支えられているのだが。
そして、買ったチキンもケーキも一人分。
気持ちが元気でも、縮まった胃袋は簡単には戻ってくれない。
この調子では酒も弘樹は飲めまい。
野分は寂しいような、でも嬉しい気持ちを抱え、弘樹に返事をする。
「はい、ヒロさん。」
「雪…?」
「雪ですね。寒くないですか?」
「きちんと着たから大丈夫だ。」
「そうですね、でも早くかえりましょ?」
「・・・野分、見てみろ…」
それは輝くイルミネーションに雪がちらつき、『キラキラ、ピカピカ』と光の世界をつくっていた。
「キレイ、ですね…」
「あぁ。」
そう言う弘樹の方を向くと、一瞬目を奪われた。
光が作る世界にではなく、それを見つめる弘樹に…。
イルミネーションを見つめる、その優しげな表情に。
(見れて良かった…、こいつと一緒に。)
「メリークリスマス、野分」
「メリークリスマス、ヒロさん」
第一章 完